ステーキ食べたい
まさお:誰かのうちに食事に呼んでもらうことってあんだろ?
龍一:あ~たまにあるな
まさお:その時にさ,どうすればステーキを出してもらえるのかってのをずっと考えてるんだけどよぉ,どうにも答えがみつからねぇ
龍一:お前はほんとにどうでもいいことばっか考えてやがんな
まさお:だってよぉ,金持ちの幸せそうな奴らはみんなステーキ食ってんだろ?
龍一:みんなってことはねぇだろ。ステーキ食ってるからって幸せなわけじゃねぇんだ
まさお:ステーキ食ってる奴は幸せだろ。「ステーキは幸せの塊だ」って誰かが言ってたぞ
龍一:なんだそれ。ことわざか?
まさお:それによぉ, 生まれてこの方たったの一度も人んち行ってステーキ出してもらったことねぇんだよ。俺みんなに嫌われてんじゃねぇのかと思ってよぉ
龍一:そりゃあ当然だろ
まさお:なんだよ当然って。俺そんなに嫌われてんのか?
龍一:そうじゃねぇ。当然ってのは,自分ちに食事に呼んでな,そこでステーキ出す家なんてそうそうないって言ってんだ。まぁ~ステーキ出す家といえば,この界隈ではうちくらいなもんだろ
まさお:え?龍さんちステーキ出してくれんのか?
龍一:うちのホームパーティーのメニューはステーキって決まってんだ
まさお:ってことは?今週末龍さんちで開かれる ホームパーティーのメニューは?
龍一:ステーキだ
まさお:そりゃあすげぇな。今からもうテンション上がってきた!
龍一:そんなにステーキ食いてぇのか?
まさお:食いたいねぇ〜。自分ちじゃなくて人んちでステーキ食いたい
龍一:どういう感覚なんだそれは
まさお:それなのに誰も出してくれねぇ
龍一:普通は人呼んだ時にステーキなんて出さねぇんだ。どうしても人んちでステーキを食いてぇんなら,「今度うちに来た時何食べたい?」とかなんとか聞かれることあんだろ?そんときにはっきりと「ステーキ食べたい」って言うしかないだろうな
まさお:言えるかよ,「ステーキ食べたい」なんて
龍一:でもどうしても食いてぇんだろ?人んちで
まさお:どうしても食いてぇ。人んちで
龍一:だったらはっきり言うしかないだろ。そうじゃねぇと俺んち以外では誰もステーキなんて出してくれねぇよ
まさお:そうだけどよぉ,「ステーキ食べたい」なんて言えねぇだろ
龍一:お前なぁ,言えねぇけどステーキは出してほしいなんてそんな虫のいい話があるか。お前がどうしても「言えねぇ」っていうんだったら,今度のホームパーティーの時もお前だけはステーキお預けだ
まさお:なんでだよ。そりゃあねぇだろ龍さん。俺の幸せを奪う気かよ
龍一:お前はなんでそうやってすぐに「ステーキ」と「幸せ」を結びつけたがんだ。まぁいい。じゃあ「ステーキ食べたい」って言ってみろ。ちゃんと言えたらステーキやるから
まさお:だから…言えねぇんだって…
龍一:「言えねぇ」ってことはねぇだろ。今度のホームパーティー,何食べたい?
まさお:ス…ス…ステ…ステ…
龍一:……。「言えねぇ」ってそんなに言えねぇのか。「ステーキ」さえも言えなくなってんだろ
まさお:だから「言えねぇ」って言ったろ
龍一:「言えねぇ」ってのは,恥ずかしくて言えねぇとか,遠慮して言えねぇとか,そういうことじゃねぇのかよ
まさお:恥ずかしさも遠慮もあるけどよぉ,それよりとにかく緊張しすぎて「ステーキ」って単語さえうまく発音できなくなんだ
龍一:今お前「ステーキ」って言えたろ
まさお:今は言えるよ
龍一:どういうことだよ。「ステーキ食べたい」って言ってみろ
まさお:ステーキ食べたい
龍一:言えんじゃねぇか
まさお:言えるよ
龍一:だったら言えよ
まさお:正式に聞かれると,緊張して言えねぇんだ
龍一:なんだよ,正式に聞かれるとって
まさお:だから,「何を食べたいか」って正式に聞かれると言えねぇんだよ
龍一:なんなんだそれ。そんなのあんのか。あ~あれか?あがり症ってやつか?
まさお:なんだそれ?
龍一:緊張しすぎて普通じゃいられなくなる病気みたいなもんだ
まさお:「ステーキ食べたい」って言えなくなる病気ってことか?
龍一:お前今は「ステーキ食べたい」って言えてんだよ
まさお:だから普段は言えんだよ。「ステーキ食べたい」って
龍一:お前今度のホームパーティーで何食べたい?
まさお:ス…ス…ステ…ステ…
龍一:なんでそうなる?
まさお:だから緊張すんだって,「何食べたい?」って聞かれると
龍一:どうしても「ステーキ食べたい」って言えねぇのか
まさお:言えねぇよ,「ステーキ食べたい」なんて
龍一:今は言えてんだよ,「ステーキ食べたい」って
まさお:正式に聞かれると言えねぇんだって
龍一:お前今度のホームパーティーで何食べたい?
まさお:ス…ス…ステ…ステ…
龍一:どうなってんだこれ。仕組みがよく分からねぇ。なんなんだよ正式って
まさお:仕組みは俺もよく分かんねぇけど,とにかく言えねぇんだよ
龍一:お前なぁ,「ステーキ食べたい」って言えねぇんだったら,おかゆだぞ
龍一:おかゆってのはな,米に多めに水入れてやわらかく煮た食べ物だ。風邪の時とかによく食うあれだ
まさお:おかゆは知ってんだよ。「『ステーキ食べたい』って言えなかったらおかゆだ」ってのはどういうことだって聞いてんだ
龍一:お前さんが何食べたいか聞かれた時に「ステーキ食べたい」って言えないんだったら,誰かの家に呼ばれた時に出てくるメニューは決まっておかゆのみだって言ってんだ
まさお:そんな馬鹿な話があるか。何食べたいか聞かれて「ステーキ食べたい」って言えなかったら普通は普通のメニューが出てくるだろ
龍一:普通はな
まさお:なんだよ「普通はな」って
龍一:普通なら普通のメニューが出てくるんだろうが,何食べたいか聞かれて「ステーキ食べたい」って言えないんだったら,俺がみんなに「まさおは実はおかゆが大好物だから,家に呼んだ時には必ずおかゆを出してやってくれ」って言いふらして回るから,誰かの家に呼ばれた時には決まっておかゆが出てくる
まさお:やめてくれよ龍さん。余計なことすんなよ
龍一:お前が「ステーキ食べたい」って言えないからだろ
まさお:「ステーキ食べたい」って言えないのがそんなに悪いことなのかよ
龍一:今は言えてんだよ,「ステーキ食べたい」って
まさお:だから正式に聞かれると…
龍一:克服させてやりてぇんだよ俺は
まさお:え?
龍一:お前さんのあがり症を治してやりてぇ
まさお:龍さ~ん
龍一:それとな,この際だから言うぞ
まさお:なんだよ,改まって
龍一:前々から言おう言おうと思いながらなかなか言えなかったんだが,お前は日頃からおかゆのことを馬鹿にしている節がある
まさお:おかゆを?俺が?何言ってんだよ,俺はおかゆを馬鹿にしたことなんて一度もねぇよ。風邪ひいた時にはお世話になってるしよぉ
龍一:だったら聞くが,誰かの家に呼ばれて,メニューが本当におかゆのみだったらどうする?
まさお:どうするって…,いただきますよ
龍一:喜んでか?
まさお:喜んで?まぁ…喜んでっていうか…普通に?
龍一:テンションは?
まさお:テンション?
龍一:おかゆを食う時のテンションだ
まさお:おかゆを食う時のテンション?まぁ…テンションはちょっと低めかもしれねぇけど…
龍一:ほらみろ。やっぱりお前はおかゆを馬鹿にしてる
まさお:馬鹿にはしてねぇって。だってメニューがおかゆのみだぞ。誰だってテンション下がるだろ
龍一:下がるもんか。むしろ上がるだろ
まさお:龍さんテンション上がんのか?おかゆのみでだぞ?すげぇな
龍一:俺はおかゆを心から愛してんだ
まさお:おかゆを愛するとかあんのかよ
龍一:お前さんは知らねぇと思うが,おかゆってのはなぁ,人の心の内を見透かすそれはそれはありがたい食べ物なんだよ
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