藤澤俊輔 「漫才コラム」と「漫才.コント.落語台本集」

漫才作家だけで食べていくために「オチを売るシステム」を模索中。「古典漫才」の普及を目指しフリー台本公開中。時々コントと落語


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ゴルフ

まさお:龍さん元気か?

龍一:なんだ,まさおか

まさお:なんだってなんだよ

龍一:昨日も会ったろ

まさお:まぁそうだけど……,今日は特別に,日頃の感謝を伝えに来た

龍一:日頃の感謝?なんだよお前,どうした?熱でもあんのか

まさお:熱って失礼だろ。俺もやっとそういうことを考えられる年頃になったってこった

龍一:あのまさおがねぇ…

まさお:で,龍さん,何がほしい?

龍一:何がって?

まさお:だから…,日頃の感謝の気持ちを込めて何かプレゼントしてやるから「何がほしいか」って聞いてんだろ

龍一:「プレゼントしてやる」っていう言い方はねぇだろ

まさお:で?何がほしい?

龍一:そんな急に「何がほしい」って聞かれてもな,すぐには出てこねぇ

まさお:例えば…最近なんか困ってることとか…なんかあるだろ

龍一:困ってるねぇ…。まぁあれだな,最近は運動不足でいけないなとは思ってるな

まさお:運動不足?運動が不足すると困ることでもあんのか?

龍一:俺たちもういい年だろ。運動しないとどんどん体が使いもんにならなくなるらしいぞ

まさお:そういうもんかね。俺なんか毎日野原駆け回ってるから,そういう心配はないな

龍一:お前いまだに野原駆け回ってんのか,子どもみたいに

まさお:じゃああれやるか

龍一:何を?

まさお:サッカー

龍一:サッカー!? …俺たちもう65だぞ。しかも運動不足だって言ってんのにいきなりサッカーは命取りだろ

まさお:そうか。俺はサッカーまだまだいけるけどな

龍一:お前は毎日駆け回ってるからだろ

まさお:そいうことなら…おもいきってゲートボールに手出すか…

龍一:「手出す」って…悪いことじゃないだろゲートボールは

まさお:そうだけど,「65くらいが一番迷うところだ」って裏のじいさんが言ってたぞ。ゲートボールやろうかやるまいか

龍一:まぁ…それはそうかもしれねぇな。でも…ゲートボールやるんなら,ゴルフの方がいいと思うけどな俺は

まさお:ゴルフってなんだ?

龍一:ゴルフはゴルフだろ

まさお:うまいのか?

龍一:食べ物じゃねぇ。お前ゴルフも知らないのか

まさお:知らねぇ

龍一:でもゲートボールは知ってんだろ?

まさお:だからそれは,裏のじいさんから聞いて初めて知った。三日前に

龍一:三日前に!? お前はほんと物を知らなくて駄目だね。サッカーとか自分が好きなもののことしか知らねぇんだろ

まさお:で,なんなんだよゴルフって。教えてくれよ

龍一:ゴルフってのは,これくらいの小さなボールを棒でかっ飛ばして,遠〜くにあるボールよりもほんの少しだけ大きな穴ぼこに入れるっていうスポーツだ

まさお:なんだよそれ。ほんとにスポーツなのか?そんなんで運動不足解消されないだろ

龍一:ゴルフをやるゴルフ場ってのがやたらと広いんだ。そこを移動するだけでも結構いい運動になる

まさお:そこを駆け回るんなら運動になるな

龍一:歩くんだ

まさお:なんで歩くんだよ。走れよ

龍一:そういう競技じゃない。カートに乗ることもある

まさお:カートってなんだ?

龍:車みたいなやつだ

まさお:車?それ絶対スポーツじゃねぇだろ。車に乗ったら全然運動にならねぇ

龍一:とにかくやってみれば分かる

まさお:まぁ…百聞はなんとかって言うからな。とりあえずやりに行くか

龍一:百聞は一見に如かずだ。ただな,そんな簡単には始められねぇんだ

まさお:なんでだよ

龍一:道具が必要だ

まさお:道具って?

龍一:ゴルフクラブって言ってな,ボールをかっ飛ばすための棒だ

まさお:じゃあ行こう

龍一:どこに?

まさお:森に

龍一:何しに

まさお:棒を拾いにだよ

龍一:棒ったってそこら辺に落っこちてる木の棒じゃ無理だ

まさお:じゃあどこに行けばもらえるんだよその棒

龍一:もらうんじゃない。買うんだ

まさお:買うのか。じゃあ買いに行こう。10円か20円あれば買えるんだろ?

龍一:うまい棒じゃないんだ。10円で買えるか

まさお:いくらあれば買えるんだよ

龍一:安いやつでも1万くらいはするな

まさお:1万円!? 1万かぁ〜。まぁでもな,龍さんにはいろいろ恩があるからな。よし!俺も男だ。1万出そう!そしたら龍さんの好きなゴルフってやつ,一緒にやれるんだろ?

龍一:うれしいね。まさかあのケチなまさおからそんな言葉聞けるとはな。ただな,1万ってのはゴルフクラブ1本の値段だ

まさお:何本必要なんだよ

龍一:7本くらいは必要だろうな

まさお:7本!? じゃあ…7万ってことかよ!なんでそんなに必要なんだよ。すぐ折れるのか?だとしたら棒屋さんの策略だろ。定期的に折れるようになってんだよ

龍一:棒屋さんってなんだ

まさお:そのゴルフっていう棒作ってるやつだよ。夜な夜な折れ線とか入れてんだろそいつが棒に。折れやすくなるようにって

龍一:そんなやつはいないだろ。折れ線なんて入ってない

まさお:だったらなんで7本も必要なんだよ

龍一:例えばな,最初に使うクラブはできるだけ遠くに飛ばせるタイプのクラブがいい

まさお:そりゃあそうだろうな

龍一:最初にかっ飛ばした球は,だいたい草むらに入っちまう

まさお:草むら?ゴルフ場ってのは草むしりもしてないようなとこなのか?

龍一:そうじゃない。わざと生やしてる

まさお:髭みたなものか?

龍一:オシャレで生やしてるんじゃあない。まぁ…障害物みたいなもんだ。そういう草むらからボールを出すためのクラブも必要だし,それから…バンカーって言ってな,まぁ…砂場だな。砂場から出すためのクラブも必要なんだ

まさお:砂場があるなんてなかなか気が利くな

龍一:なんだ気が利くって…。あれは結構嫌なものだぞ

まさお:大人にとってはだろ?一緒に行った子どもたちは大喜びだ

龍一:砂場ったって…キッズコーナーみたいなもんじゃあない

まさお:じゃあなんだよ

龍一:これも障害物だ

まさお:ずいぶん障害物が多いんだな,ゴルフってやつは

龍一:それから…ボールを入れる穴ぼこの周りはグリーンって言ってな,まずはそのグリーンにボールを乗っけて,そこからコロコロボールを転がして穴ぼこに入れるんだが,そのボールをコロコロ転がすための専用のクラブってのもある

まさお:今日は龍さんを喜ばせようと思ってやって来たんだけどよぉ,さすがにそんなにたくさんの棒を買う金は持ってねぇんだ。1万出して1本だけ買うから,申し訳ねぇけどあとは龍さんのそのクラブとやらを貸してくれねぇか?この通りだ。そしたら一緒にやれるんだろ?ゴルフ

龍一:それがなまさお,俺も持ってないんだ

まさお:え?龍さんも?なんで?

龍一:なんでってそりゃお前あれだよ…

まさお:金がねぇのか?

龍一:ない

まさお:なら丁度いいじゃねぇか

龍一:何が丁度いいんだよ

まさお:俺は今日龍さんに「日頃の感謝を伝えに来た」って言ったろ。だから,今から俺が棒屋さんに行ってゴルフの棒一本買ってくるから,それ持ってやりに行けばいいだろ

龍一:お前の気持ちはよ〜く分かった。うれしいよ。ただなぁ,クラブを一本だけ持って行くって言われてもなぁ,どの一本を選べいいかよく分からねぇし,何よりクラブ一本だけ持ってラウンドを回るのはかなり恥ずかしいことなんだ

まさお:なんだかめんどくせぇなぁゴルフってやつは

龍一:まぁ…そういう理由もあってな,昔っから「やりてぇなぁ」って気持ちをこらえて,ゴルフには手を出さねぇようにしてきたってわけよ

まさお:龍さんそんなに昔からゴルフってやつやりたかったのかよ。ならなおさら龍さんの夢叶えてやりてぇなぁ

龍一:どうしたんだよまさお。今日はやけに優しいじゃねぇか。なんか泣けてきたよ。その気持ちだけで十分だ

まさお:何言ってんだよ。龍さんはこれまでそれだけのことをしてくれたんだよ。俺がそれに気づかなかっただけでさ。それを「あたりまえだ」なんて思っちまってさ。やっと分かったんだよ。ちゃんと感謝の気持ちを伝えないといけないって。俺だけじゃないんだぜ。うちの家族もみんなそう思ってんだ。だから今日はうちの家族を代表して,こうしてはるばるやって来た

龍一:「はるばる」って…お前んち斜向かいだろ

まさお:だから俺は,どうしても龍さんにゴルフをやらしてやりてぇ!そのためだったら俺はなんだってやるし,なんにだってなる!なる?そうか!俺がそのゴルフクラブってやつになればいいのか!なぁ?龍さん

龍一:「なぁ」って言われてもな…,お前さん狸じゃあるまいし,ゴルフクラブになるなんて無理だろ

まさお:まぁ確かになぁ,ゴルフクラブなんて見たことねぇしな

龍一:見たらなれんのかお前さんは,ゴルフクラブ

まさお:そうか!狸か!

龍一:なんだよ急に,「狸か!」って…

まさお:龍さん前に「山で狸助けた」って言ってたろ

龍一:あ~そんなこともあったな。怪我した狸をな

まさお:狸ってのはなんにでも化けられるんだろ?

龍一:そうらしいな。俺はまだ狸が化けたところを見たことはないがな

まさお:龍さんが助けた狸,確か「家族連れだった」って言ってなかったか?

龍一:家族連れっていうのか…子連れだったな

まさお:だったら俺がその狸の家族探して,ゴルフクラブに化けてくれるよう頼むってのはどうだ?家族みんなで化けてもらえば,ゴルフクラブ何本分にもなるだろ

龍一:お前なぁ,あれはもう1年も前の話だぞ。見つけられるわけないだろ

まさお:何言ってんだよ龍さん。俺は狸見つけんの得意だろ

龍一:そんなのに得意とか不得意とかあんのか?

まさお:俺は毎日野原を駆け回ってるんだぜ。どこに狸がいるのかなんてすぐに分かるさ

龍一:狸の居場所が分かったとしてもだ,それが俺が助けた狸かどうかなんて分からねぇだろ

まさお:その狸,どんな面してた?

龍一:どんな面って言われてもなぁ…,まぁ…狸面だな

まさお:あたりめぇだろ。狸はみんな狸面してらぁ。ほら…なんかあるだろ,美人とかイケメンとか

龍一:狸にもあるのか?美人とかイケメンとか

まさお:分かんねぇけど…,なんかあるだろ特徴が…

龍一:特徴って言われてもな,狸の顔はみんなおんなじ顔に見えるがな

まさお:狸の世界にもきっと,醤油顔とかソース顔とかあるんじゃねぇのか?人間から見たら違いが分からねぇかもしれねぇが…

龍一:ソース顔の狸ねぇ。それにな,たとえ見つけられたとしてもだ,そんな俺のわがままをあいつらに言えるわけがねぇ

まさお:まぁそうだよな。そう言うと思ったよ。龍さんはそういうやつだ。そしたらやっぱり…俺がやるしかねぇな。龍さん,俺にやらせてくれ!

龍一:何を?

まさお:だから,ゴルフクラブをだよ

龍一:「やらせてくれ」って言われてもなぁ…,お前さんゴルフクラブ知らねぇから「やれる」と思ってんだろうけど,そんな簡単にやれるもんじゃあない

まさお:確かに知らねぇけど,棒なんだろ?見ての通り俺はガリガリで昔から「棒みてぇなやつだな」ってよく言われんだ。それでいて体力には自信がある。俺には学はねぇし,金もねぇ。だからよぉ,俺がゴルフクラブになるってのが,龍さんに感謝の気持ちを伝えるのに一番いい方法だと思うんだよ。だから頼むよ,龍さん,この通りだ

龍一:まさお〜どうしたんだお前。やっぱり熱でもあるんじゃねぇのか?まあいい。分かった。お前さんがそこまで言うなら…やってもらうとするか…

まさお:ありがとよ

龍一:できるかどうかは分からねぇが,やるだけやってみればいい。俺がお前の足を持って振り回すから,お前は手でボールをひっぱたいてくれ

まさお:なるほどな。俺が手でボールをひっぱたけば,ボールが向うに飛んでいくって寸法だな。なんか楽しそうじゃねぇか…

 

まさお:へぇ〜ここがゴルフ場かぁ〜。ずいぶん綺麗なとこだな。全然草ぼうぼうじゃねぇじゃねぇか

龍一:おい!まさお!

まさお:なんだよ龍さん

龍一:お前なんで俺と並んで歩いてんだよ

まさお:なんでって?駄目なのか?

龍一:歩くゴルフクラブなんて前代未聞だろ。ここに入れ

 

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