藤澤俊輔 「漫才コラム」と「漫才.コント.落語台本集」

漫才作家だけで食べていくために「オチを売るシステム」を模索中。「古典漫才」の普及を目指しフリー台本公開中。時々コントと落語


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素振り依存症

当て書き:囲碁将棋(文田大介 / 根建太一

 

文田:将来の夢ってあります?

根建:そりゃあプロ野球の選手だろ

文:いまさらかよ

根:なんだよ「いまさら」って

文:普通のプロ野球選手ならそろそろ引退する年だからね

根:夢を持ち続けるのは自由だろ

文:あきらめも肝心だからな

根:お前あきらめきれるのかよ,プロ野球選手

文:今だって野球は大好きだけどさぁ…,あきらめたよ。今は素振りができるだけで幸せだよ。素振りしながら死ねれば本望です

根:なんか変な悟り開いてない?

文:変?

根:「素振りしながら死ねれば本望」って変だろ

文:俺も薄々「変だなぁ〜」って気づいてるんだけどさぁ,素振りってかなり惑溺性があるから,もういい加減やめたほうがいいかなぁって…

根:別に素振りやめなくてもいいだろ。素振りを全面否定してるわけじゃないからね

文:惑溺性あるのに?

根:ないだろ惑溺性なんて

文:お前は日頃素振りしてないから分からないと思うけど,素振りには惑溺性あるからね。俺なんてもう1日に5回は素振りしないと何もできない体になっちゃってるからね

根:どういう体だよ。でも…言ってるわりに少なくない?素振りの回数

文:俺くらいの常習者になると,5回くらいで1日もたせることができるようになるんだよ

根:逆じゃないの?やればやるほど回数増やさないと効かないみたいな。っていうか…「1日もたせる」って何をもたせるんだよ,素振りすることによって

文:とにかく…もう素振りはやめます

根:野球大好きなんだから,素振りやめる必要ないって

文:そんな甘い言葉ささやくのやめろよ。今やめないと,俺もう一生素振りやめられないから

根:素振りしながら死ぬのが人生最後の夢だったんじゃないのかよ

文:いや…それは俺の甘えだ。これまでの俺の人生は,ただただ素振りに依存する…そんな人生だった。俺ほんとにやめるから。だから,これまでの素振りのことは警察には言わないでくれないか。頼む!この通り!

根:言えるわけないだろ。言ったところで警察の人相手にしてくれないからな

文:なんでだよ。犯罪に大きいも小さいもないって言ったのはお前だろ!

根:言ってねぇよそんなこと。それに犯罪じゃないからね

文:とにかく,足を洗うから。あっ…でも素振りだから…手を洗うから…

根:足でいいよ,足で

文:ちゃんと足洗うから。足の裏とか足の指の間とかもちゃんと洗うから

根:「ちゃんと足を洗う」ってそういうことじゃないんだよ

文:あ〜…そうやって言ってるそばから素振りしたくなってきた

根:え?なんだよ大丈夫かよ

文:あ〜…素振りしてぇ〜

根:これあれか?禁断症状ってやつか?

文:あ〜…助けてくれ…

根:どうすりゃいいんだよ。とりあえず素振りしろよ今ここで

文:人前では無理だろ。警察に通報されて逮捕だぞ。漫才中に現行犯逮捕って前代未聞だろ

根:だから素振りは犯罪じゃないから。いいから一回素振りしろって,漫才にならないから

文:あ〜もうだめだ(素振りをする) よし…漫才つづけようか

根:……

文:ほらやろうぜ漫才。1回の素振りで4時間はもつから

根:だから何がもつんだよ。もうさぁ…そんなに素振りしたいんだったら普通に野球やればいいだろ

文:野球はやってるよ

根:やってんの?チームに入って?

文:入ってないけど…

根:なんでだよ。チームに入らないと試合できないだろ

文:チームはまだだろ

根:まだってなんだよ

文:まだドラフトの時期じゃないからね

根:お前ドラフトで指名されると思ってんの?

 

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