名前はまだない
富澤:最近猫を飼いはじめましてね
伊達:猫はかわいいね。どんな猫ですか?
富:しっぽがついてて,四つん這いで歩くかんじの猫ですね
伊:みんなそうだよ。猫は。何を言ってんだよ
富:どんな猫って言うから…
伊:大きさとか色とかあるだろ
富:あ〜…大きさはこれくらいで,色は無地
伊:無地ってあんまり言わないけどね。白ってことですか?
富:真っ白でかわいいんですよ
伊:名前は?
富:名前はまだないです
伊:じゃあ俺がつけようか
富:なんでだよ。恥ずかしいからやめろよ
伊:なんで恥ずかしいんだよ。俺に名前つけられたら。名前つけるの得意だから。昔そういう仕事してたから
富:猫に名前をつける仕事?そんな仕事あるのかよ
伊:どういう名前がいいの?
富:白猫だから,白がつく名前がいいかな
伊:白がつくね。あとは?
富:すくすくと育ってほしいっていう願いを込めたかんじ?
伊:思いつきました
富:もう!? 早くない?
伊:そういう仕事してたから
富:どういう仕事なんだよその仕事
伊:白ってついて,男らしく元気に育ってほしいという願いを込めて,「白飯」ていうのはどう?
富:メスだよ
伊:メスなの?そういうことは先に言えよ
富:それに「白飯」って米だろ
伊:大丈夫だよ。白飯っていうのはちゃんと炊き上がってる米だから
富:ふっくらと炊き上がってるかとかそういう問題じゃないんだよ
伊:メスだからね。だったら…女の子っぽい名前で,「白」に「美しい」って書いて…「白美」っていうのはどう?
富:嫌だよ,そんな白身魚みたいな響きの名前
伊:何文句ばっかり言って。「白飯」と「白美」以外で白がつく名前っていったら「白ごま」か「白味噌」しか残ってないからね
富:なんで食べ物の名前つけようとするんだよ。猫なのに。お前名前つけなくていいから。妹がつけることになってるから
伊:猫の妹が?
富:俺の妹がだよ。猫の妹って猫だろ
伊:お前の妹ね。妹は名前なんだったっけ?
富:名前はまだないです
伊:まだない?お前の妹生まれたて?
富:38
伊:38歳にもなってなんでまだないんだよ
富:迷ってるんだろうね
伊:迷いすぎだろ
富:名前っていうのは一生を左右するものだから,迷うのも当然でしょ
伊:38年間も名前つけてもらえない時点で人生迷いっぱなしだろ
富:家族で話し合って,とりあえず猫の名前を先につけようってことになったんだよ
伊:まず妹でしょ。お前んちの家族頭おかしいの?
富:まあまあだよ
伊:まあまあおかしいのかよ。妹もいたの?その場に
富:いましたよ
伊:妹も妹だよ。なんで「わたしのを先につけて」って言わないんだよ
富:妹には「名前」っていう概念がないからね
伊:「名前」っていう概念がない?どういうことだよ?でもその妹が猫の名前をつけるだろ
富:だから全然決まらないんだよ
伊:何やってんだよ。猫の名前が決まらないと,妹の方も決まらないんでしょ
富:そこがジレンマだよね
伊:全然ジレンマじゃないわ。名前なんておもいきってつけちゃえばいいんだよ。猫は「タマ」,妹は「花子」でいいだろ。勢いだからこういうのは
富:勝手に決めるなよ。「花子」はうちの母親の名前だから駄目だよ
伊:お母さんとかぶっちゃった?じゃあ「花」でいいだろ
富:「花」は一番下の妹の名前だから駄目だよ
伊:一番下の妹?ちょっと待て。すぐ下の妹のその下の妹にはもう名前がついてんの?
富:あたりまえだろ。もう35だからね
伊:いやいや…38だろ?もう一人の妹は
富:あいつには「名前」っていう概念がないからいいんだよ
伊:だからなんなんだよ…その「名前」っていう概念がないって。大丈夫なの?その妹
富:その妹って?まいのこと言ってんの?
伊:まい?まいって誰だよ?
富:すぐ下の妹だよ
伊:いやいや…すぐ下の妹にはまだ名前ないんじゃないの?
富:名前がまだない?そんな人いるわけないだろ。38にもなって
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