サプライズ
富澤:実は事務所のみんなで話し合って,「伊達ちゃんへの感謝の言葉を書いた色紙とプレゼントを渡そう」ってことになったんですよ
伊達:それ俺に言っちゃっていいの?
富:「サプライズ」って言ってたから,大丈夫じゃない?
伊:だったら駄目だろ。サプライズって分かってんの?渡されても俺もう驚けないよ
富:でもそこは「サプライズ」だから,驚いた方がいいって
伊:無理だろ。お前がすべてをぶち壊してんだよ
富:それに「感謝の言葉を書け」って言われても全然思いつかないんだよね
伊:だからそういうことも俺に言うなよ
富:こういうのって何書けばいいの?
伊:お前バカなの?俺が言ったことをお前が書いてそれを俺がもらって読んでもうれしくないだろ
富:でもお前だって「伊達ちゃんへの感謝の言葉を書け」って言われても困るだろ
伊:あたりまえだろ。俺本人だから。俺伊達ちゃんだから。伊達ちゃんに「伊達ちゃんへの感謝の言葉書け」って頼むこと自体がおかしいからね
富:俺だって同じだよ
伊:同じじゃないわ。お前伊達ちゃんじゃないだろ
富:じゃあお前は「伊達ちゃんへの感謝の言葉を書け」って圧力かけられてないの?
伊:あたりまえだろ。俺は伊達ちゃん本人だって言ってんの。っていうか「圧力」かけられてんの?
富:圧力がすごすぎて胃が痛いんだよね,ストレスで
伊:なんでそんなに嫌なんだよ,俺への感謝の言葉を書くのが。っていうか誰に圧力かけられてんだよ
富:ちょっと何言ってるか分からない
伊:なんでだよ。言えないくらい怖いやつに圧力かけられてんの?
富:そこはサプライズだから
伊:誰に圧力かけられてるかはサプライズなの?なんか怖くない?
富:で,プレゼントは何がいい?
伊:「プレゼントは何がいい」って急に言われても…,まぁ…手作り感あふれたものとかいいよね。世界に一つしかないものとかね…
富:そんなのでいいの?
伊:「そんなの」って…気持ちが込もってていいんじゃないですか
富:それならもうありますよ
伊:なんですか?
富:ネタ
伊:ネタ?漫才の?
富:ネタ帳に書いてあるネタをプレゼントしますよ。手作りのネタ
伊:そりゃ手作りだろうけど…
富:世界に一つしかないですよ
伊:世界で二つ目だったらパクったネタだからね
富:「世界に一つだけのネタ」
伊:スマップみたいなかんじで言うなよ
富:何?不満なの?
伊:不満とかじゃないけど,俺がイメージしてるプレゼントとなんか違ったからさ
富:お金でしょ
伊:なんだよ急に
富:お前がイメージしてるプレゼントだよ。お金がほしいんでしょ?
伊:「お金がほしい」なんて言ってないだろ
富:じゃあお金はほしくないのね
伊:「ほしくない」とも言ってないだろ。「お金がほしい」なんて人前で言うもんじゃないからね。それに俺ほんとに手作り感あふれたものとか好きなのよ
富:じゃあ俺が手作りの何かを作るわ
伊:お前が作るの?相方の手作りっていうのもちょっと気持ち悪いだろ
富:でもお金だよ
伊:偽札だろ,「手作りのお金」って
富:作るのうまいから
伊:うまく作っちゃ駄目なやつだからね,お金は
富:うまくできたやつより手作り感あふれてるほうがいいってこと?
伊:「手作り感あふれたお金」って…バレバレの偽札だろ
富:「世界に一つだけのお金」の方がいいの?
伊:そのお金絶対使えないだろ
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これはフリーの漫才台本です。ご自由にお使いください。
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「全国総漫才師化計画」というと大げさですが…
M-1の予選が始まっています。
M-1には,アマチュア漫才師を応援するための「ナイスアマチュア賞」と「ベストアマチュア賞」があって,アマチュアのみなさんの参加を歓迎するムードを作ろうという姿勢が素晴らしいと思います。
M-1の予選に参加した方は,アマチュアであったとしても,1回戦を通過できなかったとしても,みんな「漫才師」だと思います。「漫才をしたい」という気持ちと,実際にやってみるというその行動力があれば,誰でもなれるのが「漫才師」だと思っています。
又吉直樹さんの小説「火花」の中に,「本当の漫才師は,極端な話,野菜を売ってても漫才師」というような表現が出てきますが,この感覚と似ていると思います。
わたしは以前から,「日本人なら誰しも一度は漫才をしたことがある」みたいな状況になればいいのにと思っていました。M-1が「アマチュア大歓迎!」という姿勢を示してくれていることは,漫才がそういう方向に動いていく大きな一歩のように感じています。
「全国総漫才師化計画」と大げさな表現を使いましたが,漫才を演じるのが得意な方もいれば,漫才を書くのが得意な方もいると思います。
「演じるのは得意だけど書くのは苦手」という方は,このブログでフリー台本を公開していますので,良かったらそれを使って気軽に漫才をしていただきたいと思っています。
「演じるのは苦手だけど書くのは得意」という方は,どんどん台本を書いてほしいです。台本の投稿もお待ちしていますので,良かったら気軽に送ってください。
だくだく Ver.2
三浦:今日は最初に言っておきたいことがあるんですよ
倉本:なんですか?
三:オチです
倉:駄目でしょ
三:なんでだよ。ここに出てきて言いたいことを言う,それが漫才だろ
倉:そうですけど,漫才のオチを最初に言うのだけは駄目ですよ
三:なんで駄目なの?
倉:オチって分かってます?
三:分かってるよ。今日の漫才のオチは…
倉:だから言うんじゃないよ
三:どうせ言うんだからいいでしょ,いつ言っても
倉:いやいやいや。いつ言うかが大事ですからね
三:今でしょ!
倉:今じゃないでしょ!絶対今じゃない!
三:通常は最後の方に言うっていうのは知ってますよ
倉:「最後の方」じゃなくて,一番最後ですから。「絶対に一番最後に言う」って決まってますから,オチは
三:でも俺オチが大好きだからね,何回か言いたいんですよ
倉:だから駄目だって。何回も言ったら最後のオチが落ちなくなりますから
三:それでも落とすのが漫才師だろうが
倉:ちょっと名言っぽく言ってますけど,「好きだから最初にオチを言いたい」なんて最低ですからね,漫才師として
三:いいオチだったら何回言っても落ちますから
倉:絶対落ちないですからね。絶対にやめてくださいよ
三:分かりましたよ。じゃあオチはちゃんと最後に言いますけど,ほんとオチが大好きなのでね,落語も大好きなんですよ
倉:オチがある話,それが落語ですからね
三:だから今日は,落語をやりたいなぁと思ってまして…
倉:「落語やりたい」っておかしいでしょ。我々もうこうして二人で出てきちゃってますからね
三:こうなったら二人でやるしかないだろ
倉:二人でって…,落語は一人でやるもんでしょ
三:俺は今日一人で落語やろうと思ってたのに,お前がついてきちゃったんだから仕方ないだろ
倉:「ついてきちゃった」っていう言い方はないでしょ。私相方ですからね
三:こうなったらしょうがないから「一緒に落語の演目やらせてやる」って言ってんだよ
倉:ちなみになんの演目ですか?
三:古典落語の「だくだく」っていう演目なんですけどね,みなさん知ってますかね
倉:牛丼の話ですか?
三:「つゆだく」だろそれは
倉:牛丼のつゆが「だくだく」っていう話じゃないんですか?
三:「古典落語だ」って言ってんの。古典にすき家とか松屋とか吉野家が出てくるわけないだろ
倉:じゃあ何が「だくだく」なんですか?
三:血ですよ
倉:血がだくだく出ちゃうっていう話?
三:「槍で脇腹突かれて血がだくだく出たつもり」っていう話
倉:「出たつもり」っておかしいでしょ。槍で脇腹突かれたら絶対血がだくだく出ちゃいますよねぇ
三:槍で突かれたつもりで,血もだくだく出たつもりなんだよ
倉:なんなんですか,その「つもり」って
三:そういう話なんだよ。家財道具を全部売っちゃった男が壁一面に白い紙を貼って,そこに豪華な家財道具を描いていい暮らしをしてるつもりになっているっていう話。ある日その男が寝ていると,泥棒がやってきて盗もうとするんだけど,どれも壁に描いた絵だから盗めない。そっちが「あるつもり」で暮らしてるならこっちも「盗んだつもり」になってやろうってことで,風呂敷を広げたつもりになってそこにいろんなもの入れたつもりで盗んだつもり。それに気づいた男は,ずいぶん粋なことしやがる泥棒だってことで,泥棒と格闘するつもりで絵に描いた槍を持ったつもりで泥棒の脇腹に突き刺したつもり。泥棒は「やられた。脇腹から血がだくだく出たつもり」。これを今からやるから
倉:「今からやるから」って…,もう全部言っちゃったでしょ。オチまで全部
三:「脇腹から血がだくだく出たつもり」,これが「だくだく」という落語のオチです。このオチが好きなんですよ
倉:だからなんで先にオチを言うの?
三:お前が「どんな話か知らない」って言うからだろ
倉:それを今からやるんでしょ?
三:やりますよ
倉:これからやるネタのオチを最初に言っちゃ駄目だって言ってるじゃないですか
三:古典落語だから大丈夫だって。知ってる人はみんなオチ知ってますから。知ってるけど知らないつもりで聞く,それが古典落語のマナーだろうが
倉:知らないつもりで聞いてくださるお客様のためにも最後までオチを伏せておくのが漫才師のマナーでしょうが。先に聞いちゃったら落ちなくなるって言ってるじゃないですか
三:やってみないと分からないでしょ,落ちるか落ちないかは
倉:これもう落ちないですよ。落ちなかったら僕たち帰れないですよ。落ちなかったらどうやって終わればいいんですか
三:その時はお前……,謝って帰るしかないだろ
倉:謝って帰る!? 漫才の最後に「ありがとうございました」じゃなくて「申し訳ありませんでした」って言って帰るんですか?
三:まぁ大丈夫だから。それでも落とすのが漫才師だから
倉:自分でどんだけハードル上げてるか分かってます?自分だけ謝ってくださいよ。これ絶対落ちないですからね。こんなに前もってオチ言っちゃったら
三:分かったから。お前は謝らなくていいから。とにかくやってみないことには分からないから,落ちるか落ちないか
倉:分かりましたよ。じゃあここが白い紙を壁一面に貼った部屋のつもりで,家財道具の絵を描くつもりの芝居をすればいいんですか?
三:いや…そこからやると長くなるから,もう絵はすでに書いてあるつもりで,そこに寝てるつもりの芝居をやってくれればいいから。俺は泥棒になったつもりで入ってくる。で,最後に,そこに描いてあるつもりの槍があるつもりで,その槍で泥棒になったつもりの俺の脇腹を刺したつもりの芝居をすると
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別のオチバージョン だくだく Ver.1