多忙な株式仲買人のロマンス
伊達:世の中忙しい人っていっぱいいますけどね,一番忙しいのは株の取引をしている証券会社の人だよね
富澤:間違いないね
伊:ここか,富澤証券。なんか緊張するなこういうとこ入るの
富:そんなことより,証券会社の人がなんであんなに忙しいのかという話ですよ。株の取引っていうのは時間との戦いですからね,どうしても…
伊:ちょっと待てって
富:えっ?
伊:どうした?
富:何が?
伊:俺今ちょうど富澤証券に入ろうとしてろ
富:富澤証券ってなんだよ
伊:証券会社の名前だよ
富:お前漫才の最中に証券会社に行こうとしてたの?
伊:そういうコントだろ
富:漫才だろこれ
伊:分かってるよ。漫才だけどコントなんだよ
富:漫才だけどコント?何その哲学的な発言
伊:全然哲学的じゃないわ。俺らの漫才だいたいそうだろ。「世の中で一番興奮するのは〜だよね」って俺が言って,「間違いないね」ってお前が言って,コントに入るっていう
富:ちょっと何言ってるか分からない
伊:なんでだよ。これまでずっとこのスタイルでやってきただろ
富:昔はもう少し痩せてましたけどね
伊:そっちのスタイルじゃねぇよ。「漫才始まったらすぐコントに入ってただろ」って言ってんの
富:ちょっと思い出せない…
伊:こういうのに「思い出せない」とかある?
富:そもそも漫才の王道はしゃべくりですからね
伊:分かってるよ。俺らそういうのできないから漫才コントから始めて,最近はしゃべくりもできるようになってきたんだよ
富:漫才コントなんてやめた方がいいですよ。ちゃんとしゃべくりやんないと。しかも証券会社の漫才コントなんて絶対おもしろくないでしょ
伊:お前が言うなよ。俺らこれまで散々漫才コントやってきただろ。それに,お前が証券会社の漫才コントの台本書いてきたんだからな。俺だって「証券会社の漫才コントってなんだよ。全然おもしろくねぇな」って思ったけど,お前が「どうしてもやりたい」って言うから今日やることになったんだぞ。それも忘れたの?
富:ちょっと思い出せない…
伊:本気で言ってんの?じゃあ今日これからどうすんの?
富:これから?仕事終わったら今日はまっすぐ帰るよ
伊:予定聞いてんじゃないんだよ。お前今やろうとしている証券会社の漫才コントも忘れちゃったんだろ?
富:証券会社の漫才コントなんて書いた記憶すらない
伊:だから「この後漫才どうすんだよ」って聞いてんの
富:(笑)「この後漫才どうすんだよ」って(笑)漫才の最中に聞いちゃ駄目だろ
伊:お前のせいだよ
富:俺のせいなの?
伊:あたりまえだろ。お前がネタ忘れたからだろ
富:そういうことなら…,俺が責任を取りますよ
伊:どうやって責任取るんだよ
富:証券会社の漫才コントは思い出せないけど,めちゃくちゃ忙しい証券会社の人の話ならできるから,その話しますよ
伊:お前証券会社の人の話なんて知ってんの?
富:俺の友人で証券会社に勤めてるやつがいますから
伊:お前の友人で?同級生の中にたまたま優秀なやつがいて証券会社に就職したのかな
富:ハーヴェイ・マクスウェルっていうやつなんですけどね
伊:外国人!? 絶対お前の同級生じゃないだろ
富:マクスウェルは株の取引でそれはもう忙しい生活を送ってましてね,仕事の時は「人間」っていうよりもう「機械」みたいなんですよ。うなりをあげて回転する歯車と勢いよく弾けるぜんまいで動く多忙きわまりない「証券マン」という名の機械
伊:だいぶ言い回しがかっこいいけど,そんなにすごいの?そのマクスウェルさんって人は
富:とにかく仕事はものすごくよくできるやつなんだけど,欠点があるんですよ
伊:まぁまぁ人は誰しも欠点の一つや二つありますからね
富:仕事に熱中しすぎて,それ以外のことをすぐ忘れちゃうっていうっていうね
伊:それお前だろ
富:俺そこまで仕事に熱中しすぎてないだろ
伊:だからだろ。だからネタ忘れるんだよ
富:マクスウェルの物忘れ具合は俺よりももっとひどいから
伊:お前の物忘れよりもひどいの?
富:マクスウェルにはレズリーという女性のアシスタントがいて,一年くらい一緒に働いてたんだけど,事情があって仕事をやめることになったんですよ
伊:アシスタントのレズリーさんが?
富:それで,「次のアシスタントをよこしてほしい」って紹介所に頼んだら,早速次の日に来たんですよ
伊:「働かせてほしい」っていう人がね
富:その時マクスウェルは秘書にこう言ったの
伊:なんて言ったんですか?
富:「僕がなぜそんなことを頼まなくちゃならないんだ?ミス・レズリーが来てくれてからこの一年,仕事ぶりに不満を持ったことなど一度もない。彼女が辞めると言い出さない限り,仕事は彼女に任せる。紹介所に連絡して募集を取り消しておくように。これ以上こういう人に押しかけて来られてはかなわない」
伊:レズリーさんが辞めるということをすっかり忘れてたの!?
富:しかも,「紹介所の頼んでおいてくれ」って自分で指示したことも忘れてますからね
伊:重症だなそれは。お前の物忘れと同じくらいひどいわ
富:まだ続きがあるから。絶対マクスウェルの物忘れの方がひどいから
伊:これよりさらにひどい物忘れがあるの?
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題材:多忙な株式仲買人のロマンス / O.ヘンリー
The Romance of a Busy Broker / O.Henry
これはフリーの漫才台本です。ご自由にお使いください。
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M-1グランプリ2017で「何回も見たい」と思ったネタ
それは,ジャルジャルのあの漫才です。
あれは,単調なようでいて何回見ても笑えるネタだと思います。そんな漫才はそうそうありません。あれはすごいネタだと思います。
最初は「よく意味が分からない」という評価をされる危険があり,むしろ2回目3回目に見た方が「よりおもしろい」と感じるネタかもしれません。見ている方も何を言うのかが分かっていて,期待通りそれを言ってくれるという,古典みたいなかんじで。
それでいてかなり高度な掛け合いをしているので,おそらく毎回違ったリアクションが見られるはずです。後藤さんのリアクション,すごく上手ですし。あのものすごい掛け合いを見ているだけでも楽しいです。そしてなにより,演じていて楽しいネタなのだと思います。毎回楽しんで演じてくれれば,見ている方も飽きません。
最後に強いオチがあれば,全然違う結果になっていたかもしれないですね。
すでに何回か見てしまいました。また見たいです。特に疲れた時に見たいですね。
さらば青春の光には「正統派漫才」を目指してほしい
わたしは,漫才もコントも「正統派」が好きです。
最近活躍しているコント師の中で,「最も正統派」で「最もおもしろい」と勝手に持っているのが,さらば青春の光のお二人です。
「正統派とは何か」ということに関してはいろいろと意見があるとは思いますが,コントの場合は,「しっかりとした台本」と「演技力」か重要ではないかと思います。この二つの要素を今最も満たしているのが,さらば青春の光のお二人ではないかと…
そんなお二人は漫才もしておられて,M-1の決勝に残るほどの実力者なのですが,漫才の場合は「正統派」とは少し違い,どうしても「コント感」を強く感じてしまいます。これほどのコントをされるお二人なので,「コント感」が強いのは仕方がないという気もしますが,漫才でも「正統派」でいってほしいです。漫才もコントも両方「正統派」というコンビはあまりいないと思います。これはすごいことですし,お二人ならそれができるような気がします。
どうすればいいのか…,勝手に考えてみました。
さらば青春の光のコントは,単なるギャグで笑わせるというより,起承転結があり,全体を通しての「笑い」があって,わたしはそれが大好きです。そのようなネタの作り方は漫才でも活かしていただきつつ,もっともっと「普段の会話に近づける」ことが鍵だと思います。
コントにおける森田さんの演技力は圧巻です。でも,漫才だとそれが邪魔をしてしまっているような気がします。東口さんには「漫才師らしさ」があります。「普段の会話に近づける」ことによって,森田さんも普段の森田さんをベースにしながら,要所要所でその圧倒的な演技力を活かすことができ,すごい漫才になりそうな気がします。
結局は「正統派」が一番強く,一番長続きするような気がします。漫才も「正統派」でやれれば,お二人は,個人事務所でありながら「コント」と「漫才」だけで食べていける「コント師」「漫才師」になれるのではないかと,勝手に変な期待をしています。