つぶつぶ
山崎:前から思ってたことがあるんですけど,そろそろ数の子のつぶつぶの数を数えたほうがいいと思うんだよね
柴田:は?何言ってんの?数の子のつぶつぶの数?
山:数の子のつぶつぶの数をそろそろ数えたほうがいい時期でしょ
柴:あのちっちゃいつぶつぶを?数えるの?
山:一緒に数えよう!
柴:嫌だよ
山:なんで嫌なの?そろそろ数えたほうがいい時期にきてるんだからさぁ
柴:さっきから「そろそろ」って言ってるけど,なんなの「そろそろ」って
山:「そろそろ」っていうのは,「ある時期ある状態になりつつあるさま」のことですよ
柴:「そろそろ」の言葉の意味を聞いてるんじゃないの。「数の子のつぶつぶの数をそろそろ数えたほうがいいってどういうことだよ」って聞いてんの
山:ちょっとまじめな話になりますけどいいんですか?
柴:なんだよまじめな話って
山:僕はこれまで20年間,「数の子というのはあの塊で一つなんだ」って自分に言い聞かせるようにして生きてきたんですよ。でも,もうこれ以上自分を誤摩化して生きていくのは無理だ,もう自分に嘘はつけない,これからはちゃんと数の子のつぶつぶと向き合って生きていこう,そう思ったんですよ
柴:ちょっと言ってる意味が全く分からないんだけど…
山:なんでだよ。人がまじな話してんのに。ちゃんと聞いてた?
柴:聞いてたけどさ,「これからはちゃんと数の子のつぶつぶと向き合って生きていこうと思った」って言われても…意味分かんないよねぇ
山:だから…,数の子はあの塊で一つなのではなく,あのつぶつぶ一つぶ一つぶが数の子なんだよ
柴:知ってるよそんなこと
山:「その事実を直視しないといけない」って言ってるの
柴:どうでもよくない?それ
山:なんでそうやって数の子を軽視するような発言をするの
柴:別に軽視してないだろ。「数の子のつぶつぶの数を数えても意味ないでしょ」って言ってんの
山:そうやって物事になんでも意味を求めるようになったら人間として終わりだからね。柴田さんはもっと義理人情を大切にした方がいい
柴:義理人情関係ないだろ。数の子のつぶつぶの数数えるのに
山:そこにつぶつぶがあればそれを数える,それが人情ってもんでしょうが
柴:さっきから何言ってんの?そんなこと言い出したらタラコのつぶつぶの数だって数えなきゃいけなくなるからね
山:タラコはいいんだよ
柴:なんでだよ。どう違うんだよ。どっちもつぶつぶだろ。つぶつぶ差別するなよ。人情って言うんだったらよぉ
山:たらこはタラの子どもだからいいんだよ。数の子は「数」の子どもだからね
柴:数の子はニシンの子どもだよ
山:そこなんだよ
柴:なんだよそこって
山:つまり数の子は,ニシンの子どもであるにもかかわらず,わざわざ「数」の子って名乗ってるってことでしょ
柴:別に数の子本人が本人の意思で「数の子」って名乗ってるわけじゃないけどね
山:ニシンの子どもなんだから本当は「ニシンの子」って名乗りたいじゃないですか。それなのにわざわざ「数」の子って名乗ってるんですよ
柴:数の子とニシンの間に何があったんだよ
山:そんな数の子の複雑な乙女心が分からないんですか?
柴:全く分かんないよ。で,なんで数の子は乙女なんだよ
山:とにかく,数の子がわざわざ「数」の子どもと名乗っているにもかかわらず,その数も数えずに数の子を食べるなんて数の子に対して失礼だって言ってるんですよ
柴:数の子はそんなふうに思ってないと思うけどねぇ
山:なんでそうやってつぶつぶに対して無頓着なんですか?もっとこういうつぶつぶ問題に真摯に向き合ってよ
柴:「こういうつぶつぶ問題」ってなんだよ。数の子以外にもなんかあんのかよ
山:例えば,つぶつぶオレンジのつぶつぶとかね…
柴:オレンジジュースの中に入ってるオレンジのつぶつぶ?
山:あれもそろそろ数える時期に来てるよね
柴:その「そろそろ」っていう意味が全然分からないけど…だったらもう数えたらいいじゃん。つぶつぶオレンジのつぶつぶの数も数えればいいし,ついでにコーンポタージュのコーンの数も数えたらいいんじゃないの?
山:コーンは数えなくていいんだよ
柴:だからどう違うんだよ。違いが分からないんだよ
山:だからさっきも言ったように,数の子は「数」の子っていう名前でしょ。つぶつぶオレンジも名前からして「つぶつぶ」が強調されてるんですよ。ところが,「コーンポタージュ」という名前は,特につぶとか数を強調した名前じゃないでしょ
柴:だからなんなんだよ
山:だから…,つぶつぶオレンジのつぶたちは「僕たちの数を数えてくれ!」って思ってるけど,コーンポタージュのコーンたちは「僕たちの数を数えてくれ!」とは思ってないってことですよ
柴:言ってる意味が全然分かんない
山:なんで分かんないの?
柴:つぶたちが「数えてくれって思ってる」って言われてもピンとくるわけがないよね
山:だから…名前を見ればわかるでしょって言ってんの。数の子もつぶつぶオレンジもつぶや数を強調した名前でしょ
柴:そこまではかろうじて分かるんだよ
山:そこまで分かるんならあとは簡単でしょ。つぶや数を強調した名前だってことは,つぶたちが「僕たちの数を数えてくれ!」って思ってるってことでしょうが
柴:だからその「つぶたちが僕たちの数を数えてくれって思ってる」っていうのが分かんないの
山:なんで分かんないかなぁ〜
柴:なんでつぶたちは「僕たちの数を数えてくれ」って思ってるんだよ
山:そんなことも分かんないの?
柴:分かるわけがないよねぇ
続きはこちらのnoteを購入するとご覧いただけます。
これはフリーの漫才台本ではありません。すでに販売済みの台本です。何らかの形で使用したい場合は購入者の許可が必要ですので,この記事のコメント欄にご一報ください。