藤澤俊輔 「漫才コラム」と「漫才.コント.落語台本集」

漫才作家だけで食べていくために「オチを売るシステム」を模索中。「古典漫才」の普及を目指しフリー台本公開中。時々コントと落語


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自然体で生きる方法

当て書き:バナナマン(設楽統 / 日村勇紀

 

設楽:どうしたんだよ昨日の飲み会

日村:何が?

設:「何が」って…,お前全然しゃべらなかったろ

日:あ〜…それね

設:「あ〜…それね」じゃないよ。なんでしゃべんなかったんだよ

日:失敗したんだよ

設:失敗?なんだよ失敗って

日:先週の飲み会の時だよ。お前は結局来なかったけどな

設:あ~あの狸だけで集まる飲み会だろ?行くわけねぇだろ。俺狸じゃねぇから

日:「狸だけで集まる飲み会」ってなんだよ。そんなのねぇよ。っていうか俺だって狸じゃねぇよ。人間の飲み会だよ。「人間の飲み会」ってなんだよ。普通の飲み会だよ 

設:で?その「人間の飲み会」で何失敗したんだよ

日:「人間の」って言わなくていいよ。飲み会を盛り上げようとしてさ,無理やりテンション上げてしゃべりまくったら,みんなにめちゃくちゃうざがられてさぁ…

設:あ~それなんかちらっと聞いたな。「日村うるさい」「日村うざすぎ」「日村ひとりでしゃべりすぎ」「もう日村絶対誘わねぇ」「日村は狸の飲み会くらいがちょうどいい」

日:そんなに!? そこまで言う!? だからその「狸の飲み会」ってなんなんだよ。とにかく,「こないだ失敗したから昨日はもう失敗できねぇ」と思って静かにしてたんだよ

設:だからって全然しゃべらないやつがあるかよ

日:しゃべったら絶対失敗するんだよ。変にテンション上がっちゃうから。しゃべらなきゃ失敗しないだろ

設:「全然しゃべらない」ってのも失敗だろうが

日:失敗ではないだろ。何もしてないんだから。成功もしてないけど失敗もしてないだろ

設:「何もしてない」ってこと自体が失敗なんだよ

日:なんだよそれ。しゃべりすぎても失敗だし,全然しゃべらなくても失敗なのかよ

設:そうだよ

日:なんだよそのジレンマ。がんばってしゃべったら「うざい」って言われ,静かにしてても「キモい」って言われるんだろ

設:「キモい」って言ってねぇよ

日:どうせみんな陰で言ってんだろ,「日村キモい」って

設:それはまぁ…あれだけど…

日:「あれ」ってなんだよ。否定しろよ

設:そんなことより,もっと普通にできないのかよ,飲み会で

日:「普通」ってなんだよ。俺は俺なりに普通にがんばろうとしてんだよ

設:がんばってんのは分かるけどさぁ…

日:だったらお前はどうしてんだよ

設:俺?俺は別に普通にしてるよ

日:だから「普通」ってなんなんだよ

設:聞きたいことがあれば普通に質問するし,質問してもらえたら普通に答えるし,あんまり輪に入れない人がいたら普通にちょっと話振ってみるし…

日:お前すごくない!? それを普通にできんの?

設:まぁ…なんとなくできるよ

日:すげぇな。確かにお前いつも自然体だもんな。なんでそうやって自然体でいられんの?お前仙人なの?

設:なんで自然体だと仙人なんだよ。できるだろ普通に

日:だからもう「普通」って言うな。普通にできないから俺あんなかんじになってんだから。さらっとそういうことできるなんてやっぱりお前仙人だろ

設:お前の仙人のイメージよく分かんないけどさぁ,俺仙人じゃねぇよ

日:どうせ霞とか食ってんじゃないの?

設:霞?

日:仙人って霞食ってるイメージあんじゃん

設:霞は食ってるけどさ

日:食ってんの!? 霞?だったら絶対仙人じゃん

設:仙人じゃなくたって霞食ってるやついるだろ

日:いねぇ〜よそんなやつ。仙人以外で霞食ってるやつなんていねぇって。だって見たことねぇもん,霞食ってるやつなんて。「昨日の夜何食べた?」って聞かれて「霞」って答えてるやつ見たことねぇもん。その霞ってどんなかんじなんだよ

設:どんなかんじって?

日:だからさぁ,色とか形とかさぁ,何かに似てるとかさぁ

設:あ〜…まぁ…わたあめみたいなもんだよ

日:やっぱりそうなの?霞ってわたあめみたいなかんじはしてた。俺のイメージ通りじゃん。甘いの?

設:ほろ苦い

日:ほろ苦いの!? まぁ~霞だからな。甘いわけないよな。あれか。霞食ってるからか

設:何が?

日:霞食ってるから,飲み会とかでさらっとああいうことできんだろ?

設:霞関係ねぇよ

日:隠すなって。お前が仙人だって誰にも言わねぇから。俺だって霞食えば飲み会で自然体でいられんだろ?

設:お前は霞食ったって無理だろうな

日:なんでだよ。食ってみなきゃ分かんねぇだろ

設:まじめなこと言うけど,お前人と接する時自分のことしか考えてないだろ

日:なんだよ急に。そんなことねぇよ。俺めちゃくちゃ人に気を使ってるからね

設:誰のために気を使ってんだよ

日:誰のため?そんなの相手のために決まってんだろ

設:そんなふうに思ってる限り,無理だな

日:なんでだよ。どういうことだよ

設:「気を使う」っていうのは,大抵自分のためなんだよ

日:なんでだよ。相手のことを考えて気を使ってんだよ。「退屈してないか」とか,「嫌な思いしてないか」とか,相手のこと考えてんだろ

設:だから,なんのために相手のことを考えてんのかってことだよ

日:なんのため?「なんのため」ってどういうことだよ

設:例えばだよ。お前今俺に気使ってる?

日:お前に?お前に気使うわけないだろ

設:なんで?

日:「なんで」って…,そりゃあ俺とお前は気心知れてるからだろ

設:じゃあ,どういう相手には気を使うんだよ

日:そりゃあ…偉い人とか?ちょっと怖い先輩とか?

設:そういう人にはなんで気を使うんだよ

日:「なんで」って…怖い先輩に怒られんの嫌だし,偉い人には「こいつ気が利くな」って思われたいだろ

設:そういうことだよ

日:どういうことだよ

設:お前は相手のために気を使ってんじゃなくて,「怒られたくない」とか,「人から良く思われたい」から気を使ってんだよ

日:それが自分のために気を使ってるってことなのかよ

設:そうだよ

日:普通だろそれ。「怒られたくない」「人から良く思われたい」「人に評価してもらいたい」。みんなそう思ってんだろ

設:まぁな。気持ちは分かるよ。俺だって前はそういう生き方してからな

日:あ~あれか。お前あれだろ。どっかの店で霞食って仙人になれたから,生き方変わったんだろ。それで自然体でいられるようになったんだろ

設:霞売ってる店なんてあんのかよ。だいたいなぁ,「霞食えば仙人になれる」っていう発想がもうダメだろ。大切なのは,「自分のことばっかり考えるのをやめる」ってことだよ。欲を捨てて生きるんだよ。それが結果的に「霞を食べてるような生き方に見える」ってことだろ

日:そんなこと言われてもよぉ,飲み会で偉い人とか怖い先輩とかいたら自動的に気使っちゃうだろ。気づいたらもうそうなってんだもん。どうやって生き方変えりゃあいいんだよ

設:お前……もっと真剣に生きろよ

日:なんだよ急に,「真剣に生きろ」って。真剣だよ俺は。飲み会だって真剣に盛り上げようとしてんだよ

設:いや,お前は逃げてる

日:「逃げてる」ってなんだよ。別に逃げてねぇよ

設:お前が気を使ってんのは,自分を守るためなんだよ。お前は自分を守ることしか考えてない。人とちゃんと触れ合ってない。だから,いくら気を使っても,誰からも好かれない。それは自分でも薄々気づいてんだろ

日:……。まぁ確かに…,気を使ってる相手と仲良くなったってパターンはないな

設:自分を守るためじゃなくてさぁ,ちゃんと人と触れ合うんだよ。時には喧嘩したっていいからさぁ,もっとぶつかっていけよ。誰にでもいい顔したりするんじゃなくて,ちゃんと本音で,人とも自分とも向き合うんだよ。それが真剣に生きるってことなんだよ。そしたら見えてくるから。新しい生き方が。なっ。だからもう逃げるなよ日村。分かったか?生きることから逃げるんじゃないぞ…

日:おい設楽!しゃべりながらどこ行くんだよ。おい!……行っちゃったよ。なんだあれ。今日すげぇまじなことばっか言ってたな。あいつほんとに仙人にでもなったんじゃねぇのか。いや…でも仙人なんていねぇよなぁ。霞だって食えるわけねぇし。あれ?なんだよあいつ戻って来たぞ…

設:お~日村じゃねぇか

日:「お~日村」じゃねぇよ。なんだよ。なんか忘れ物か?

設:何が?「忘れ物」ってなんだよ

日:いやだって…戻って来たから

設:戻って来た?どこから?

日:「どこから」って…お前さっきまでここで話してたのに急にいなくなったろ

設:何言ってんだよ。お前そんなことより昨日の飲み会の時なんで全然しゃべんなかったんだよ

日:それさっき話したろ

設:だから「さっき」ってなんの話してんだよ

日:いやいや…さっきまでお前ここにいたろ

設:いねぇよ。俺飯食ってたんだから,あそこのレストランで

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