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記憶屋

2017年,再び流行語になった「記憶にございません」は,まるで伝染病のように日本国内に広がってゆき,国会はもちろんのこと,裁判や警察の取り調べにおいて,また,会社や学校や家庭など,ありとあらゆる都合の悪い事態における言い逃れの常套手段となり,国内は無法地帯寸前の状態となった。

事態を重く見た日本政府は,2018年にこれを「記憶にございません病」と命名し,国を挙げての撲滅運動を開始する。その後,記憶の有無を測定する装置が開発され,記憶があるにもかかわらず「記憶にございません」と証言した場合,偽証罪に問われることとなった。

 

客:取り戻したい記憶があるのですが…

記憶屋:取り戻したい記憶…ですか…

客:ええ。以前に消去していただいた記憶です

記憶屋:消去したご自分の記憶を復元してほしいと?

客:そうです。できますか?

記憶屋:それはもちろんできます。記憶は記憶測定器に反応しない程度に消してあるだけで,完全に消去されているわけではありませんから

客:良かった

記憶屋:復元したいのはどの記憶ですか? 

客:「どの記憶」と言われましても,私にはもう記憶がありませんから…なんと申し上げたらいいか…

記憶屋:そうでした。失礼しました。ちょっと待ってください。これまでに消去した記憶を調べてみます

客:お願いします

記憶屋:え〜…ずいぶんとありますね

客:そうなんですか…

記憶屋:金銭絡みの記憶が多いですね。いくら受け取ったかを調べれば,どの案件か分かりますか?

客:いや…受け取ったほうではなく,私が渡したほうです

記憶屋:渡したほう?

客:ええ

記憶屋:受け取った案件ばかりで…渡したのは…

客:ありませんか?

記憶屋:ちょっと絞ってみます

客:お願いします

記憶屋:あっ…ありました。お金を渡した記憶を消した案件は,一件しかないですね。これですかね…

客:記憶がないので私には分かりませんが…,一件しかないというのであれば,たぶんそれではないかと…

記憶屋:復元する前に確認させてください。記憶を戻すことはすぐにできますが,これ戻してですね,もしもの時にこの件で問い詰められて「記憶にございません」と言ってしまうと,偽証罪に問われるのではないかと…

客:なるほど,そういう案件でしたか…

記憶屋:今の技術では,復元した記憶を再び消すことができません。差し支えなければですが,なぜ復元したいのかを教えていただけませんか?

客:そうなんですか。……分かりました。実は…,私から100万円を受け取ったという方から「お金を返したい」と連絡があったんですが,私にはまったく記憶がない。思い出そうとしてみたんですが,一向に思い出せそうにないんです

記憶屋:それは当然です。記憶は完全に消去していないとはいえ,自力では思い出せない程度に消してありますから

客:記憶がないままその100万を受け取るわけにもいきませんから,記憶を復元してもらうしかないかと…

記憶屋:そういうことでしたか。お金の受け取りを拒否するという選択肢はないんですか?

客:私としては受け取りたくないんですが,しつこいんですその方が。元々の状況が分からないことにはどうすることもできなくて…

記憶屋:なるほど。そうなるとやはり…復元するしかないと…

客:ええ

記憶屋:分かりました。では,こちらの記憶復元装置へどうぞ

客:よろしくお願いします

 

記憶屋:どうですか?復元できていますか?

客:ええ,思い出しました。ありがとうございます

記憶屋:それは良かった。これで無事100万円を受け取れますね

客:いや,100万円は受け取れません

記憶屋:え?なぜです?渡していないんですか?

客:まったく渡していないわけではないんですが,100万円は渡していません

記憶屋:なら…いくら渡したんです?

客:2万円です

記憶屋:あ〜それでか

 


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