藤澤俊輔 「漫才コラム」と「漫才.コント.落語台本集」

漫才作家だけで食べていくために「オチを売るシステム」を模索中。「古典漫才」の普及を目指しフリー台本公開中。時々コントと落語


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ひきにげ

この台本は,キッズクラブにきている小5の男の子が書いた漫才台本を手直ししたものです。今その子とこの台本で漫才の練習をしています。

 

A:最近はまっていることがあるんですよ

B:なんですか?

A:「ひきにげ」

B:ダメでしょひき逃げは

A:楽しいじゃないですか「ひきにげ」って。ただねぇ…まだ下手なんですよ

B:そんなのうまくならなくていいですから

A:家で練習してても気持ちが乗らないじゃないですか

B:家で練習!? どうやってやるんですかひき逃げの練習って。やめた方がいいですよ,練習なんて

A:さっきも一回やってきたんですよ。ぶつけ本番で

B:ひき逃げからの漫才ってこと!? 「ぶつけ本番」で人にぶつけてきたってことですよねぇ

A:人にぶつける?何を?

B:「何を」って…車をですよ。人に車をぶつけて逃げてきたんでしょ?

A:そんなわけないでしょ

B:だって「ひき逃げにはまってる」って…

A:そっちの「ひき逃げ」じゃないですよ。犯罪でしょ

B:でも他に「ひき逃げ」なんてないでしょ

A:僕が言ってるのは,家電量販店とかに行ってピアノで一曲弾いて逃げてくる「弾き逃げ」ですよ

B:そっちの弾き逃げ?ピアノ弾く方の?でもピアノ下手なんですよねぇ

A:めちゃくちゃ下手ですよ。下手すぎて聴いてる人みんな死にそうになりますから

B:どんだけ下手なんですか。それ微妙に犯罪なんじゃないですか?

A:僕も「微妙に犯罪なんじゃないかなぁ…」って思ったので,逃げてきました

B:僕の知ってる「弾き逃げ」とちょっと違いますけど…,普通はちゃんと家で練習してからやるんですよ

A:「練習しない方がいい」って言ってませんでした?

B:だからそれは,人を車でひく方の「ひき逃げ」の練習ね

A:実は練習はしてるんですよ。ピアノ弾く方の「弾き逃げ」のね

B:してるんですか?どんな練習?

A:ピアノのフタをものすごい速さで閉めて,ものすごい速さで立ち去るっていう

B:それ逃げる練習でしょ?

A:「弾き逃げ」だから逃げる練習大事じゃないですか

B:逃げる練習いります?弾く練習は?

A:してないです

B:なんでしないんですか。弾く練習してくださいよ

A:逃げる練習が先でしょ

B:弾く練習が先だよ。弾いてから逃げるんですよ,弾き逃げというものは

A:弾くのはいいです。弾く練習大変だし

B:「弾くのはいいです」って…,弾かないんだったらただの「逃げ」ですよ。全然「弾き逃げ」にはまってないじゃないですか

A:ちゃんとはまってますよ。逃げることに

B:弾くことからね

 

 

これはフリーの漫才台本です。ご自由にお使いください。
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多忙な株式仲買人のロマンス

当て書き:サンドウィッチマン富澤たけし / 伊達みきお

 

伊達:世の中忙しい人っていっぱいいますけどね,一番忙しいのは株の取引をしている証券会社の人だよね

富澤:間違いないね

伊:ここか,富澤証券。なんか緊張するなこういうとこ入るの

富:そんなことより,証券会社の人がなんであんなに忙しいのかという話ですよ。株の取引っていうのは時間との戦いですからね,どうしても…

伊:ちょっと待てって

富:えっ?

伊:どうした?

富:何が?

伊:俺今ちょうど富澤証券に入ろうとしてろ

富:富澤証券ってなんだよ

伊:証券会社の名前だよ

富:お前漫才の最中に証券会社に行こうとしてたの?

伊:そういうコントだろ

富:漫才だろこれ

伊:分かってるよ。漫才だけどコントなんだよ

富:漫才だけどコント?何その哲学的な発言

伊:全然哲学的じゃないわ。俺らの漫才だいたいそうだろ。「世の中で一番興奮するのは〜だよね」って俺が言って,「間違いないね」ってお前が言って,コントに入るっていう

富:ちょっと何言ってるか分からない

伊:なんでだよ。これまでずっとこのスタイルでやってきただろ

富:昔はもう少し痩せてましたけどね

伊:そっちのスタイルじゃねぇよ。「漫才始まったらすぐコントに入ってただろ」って言ってんの

富:ちょっと思い出せない…

伊:こういうのに「思い出せない」とかある?

富:そもそも漫才の王道はしゃべくりですからね

伊:分かってるよ。俺らそういうのできないから漫才コントから始めて,最近はしゃべくりもできるようになってきたんだよ

富:漫才コントなんてやめた方がいいですよ。ちゃんとしゃべくりやんないと。しかも証券会社の漫才コントなんて絶対おもしろくないでしょ

伊:お前が言うなよ。俺らこれまで散々漫才コントやってきただろ。それに,お前が証券会社の漫才コントの台本書いてきたんだからな。俺だって「証券会社の漫才コントってなんだよ。全然おもしろくねぇな」って思ったけど,お前が「どうしてもやりたい」って言うから今日やることになったんだぞ。それも忘れたの?

富:ちょっと思い出せない…

伊:本気で言ってんの?じゃあ今日これからどうすんの?

富:これから?仕事終わったら今日はまっすぐ帰るよ

伊:予定聞いてんじゃないんだよ。お前今やろうとしている証券会社の漫才コントも忘れちゃったんだろ?

富:証券会社の漫才コントなんて書いた記憶すらない

伊:だから「この後漫才どうすんだよ」って聞いてんの

富:(笑)「この後漫才どうすんだよ」って(笑)漫才の最中に聞いちゃ駄目だろ

伊:お前のせいだよ

富:俺のせいなの?

伊:あたりまえだろ。お前がネタ忘れたからだろ

富:そういうことなら…,俺が責任を取りますよ

伊:どうやって責任取るんだよ

富:証券会社の漫才コントは思い出せないけど,めちゃくちゃ忙しい証券会社の人の話ならできるから,その話しますよ

伊:お前証券会社の人の話なんて知ってんの?

富:俺の友人で証券会社に勤めてるやつがいますから

伊:お前の友人で?同級生の中にたまたま優秀なやつがいて証券会社に就職したのかな

富:ハーヴェイ・マクスウェルっていうやつなんですけどね

伊:外国人!? 絶対お前の同級生じゃないだろ

富:マクスウェルは株の取引でそれはもう忙しい生活を送ってましてね,仕事の時は「人間」っていうよりもう「機械」みたいなんですよ。うなりをあげて回転する歯車と勢いよく弾けるぜんまいで動く多忙きわまりない「証券マン」という名の機械

伊:だいぶ言い回しがかっこいいけど,そんなにすごいの?そのマクスウェルさんって人は

富:とにかく仕事はものすごくよくできるやつなんだけど,欠点があるんですよ

伊:まぁまぁ人は誰しも欠点の一つや二つありますからね

富:仕事に熱中しすぎて,それ以外のことをすぐ忘れちゃうっていうっていうね

伊:それお前だろ

富:俺そこまで仕事に熱中しすぎてないだろ

伊:だからだろ。だからネタ忘れるんだよ

富:マクスウェルの物忘れ具合は俺よりももっとひどいから

伊:お前の物忘れよりもひどいの?

富:マクスウェルにはレズリーという女性のアシスタントがいて,一年くらい一緒に働いてたんだけど,事情があって仕事をやめることになったんですよ

伊:アシスタントのレズリーさんが?

富:それで,「次のアシスタントをよこしてほしい」って紹介所に頼んだら,早速次の日に来たんですよ

伊:「働かせてほしい」っていう人がね

富:その時マクスウェルは秘書にこう言ったの

伊:なんて言ったんですか?

富:「僕がなぜそんなことを頼まなくちゃならないんだ?ミス・レズリーが来てくれてからこの一年,仕事ぶりに不満を持ったことなど一度もない。彼女が辞めると言い出さない限り,仕事は彼女に任せる。紹介所に連絡して募集を取り消しておくように。これ以上こういう人に押しかけて来られてはかなわない」

伊:レズリーさんが辞めるということをすっかり忘れてたの!?

富:しかも,「紹介所の頼んでおいてくれ」って自分で指示したことも忘れてますからね

伊:重症だなそれは。お前の物忘れと同じくらいひどいわ

富:まだ続きがあるから。絶対マクスウェルの物忘れの方がひどいから

伊:これよりさらにひどい物忘れがあるの?

 

※続きはこちらのnoteを購入するとご覧になれます。

 

題材:多忙な株式仲買人のロマンス / O.ヘンリー
   The Romance of a Busy Broker / O.Henry

 

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M-1グランプリ2017で「何回も見たい」と思ったネタ

それは,ジャルジャルのあの漫才です。

 

あれは,単調なようでいて何回見ても笑えるネタだと思います。そんな漫才はそうそうありません。あれはすごいネタだと思います。

最初は「よく意味が分からない」という評価をされる危険があり,むしろ2回目3回目に見た方が「よりおもしろい」と感じるネタかもしれません。見ている方も何を言うのかが分かっていて,期待通りそれを言ってくれるという,古典みたいなかんじで。

それでいてかなり高度な掛け合いをしているので,おそらく毎回違ったリアクションが見られるはずです。後藤さんのリアクション,すごく上手ですし。あのものすごい掛け合いを見ているだけでも楽しいです。そしてなにより,演じていて楽しいネタなのだと思います。毎回楽しんで演じてくれれば,見ている方も飽きません。

最後に強いオチがあれば,全然違う結果になっていたかもしれないですね。

 

すでに何回か見てしまいました。また見たいです。特に疲れた時に見たいですね。

 

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